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| ケトベツは、山の中にあった。 そこに行くのには、たくさんの汽車を乗り換えて、長い間ゆられて行かなければならなかった。 最後の乗換駅には、大きな鉄の石炭ストーブが真っ赤にもえていた。 興奮したアルミのヤカンが湯気を不満そうに散らしている。 あの汽車は、ずっと離れたホームに入るのだ。 だから、そこまで大人について歩いた。 雪は止んでいて、空気が乾いてシバレている。 鼻の穴がチリチリして痛い。 大きく息がしにくい。 この状況の中、汽車を待つ。 ずっと待つ、昔の人はよく待ったもんだ。 昔は、時間がゆっくりと流れていたし田舎は都会よりもっと時間があったもんだ。 約二時間半は余分にあったな。 昔の田舎の一日は、二十六時間半以上はあった。 たしかに、そう。 やっと汽車がきた。 |
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この汽車は他の汽車よりも可愛いと言うか、小さいのだ。 あんまりメンコイから、初めて見た時はびっくりした。 線路の幅も他の鉄道よりも狭い。 人口の少ない山の中の村落には、ちょうどいいサイズだ。 だから、沢山の人が乗れるわけではないのだ。 それで、ボクが乗る時には何時もいっぱいで、座った事が一度も無かったのだ。 とても残念である。今でも心残りだ。 |
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| 木製の客車は小っちゃくて、シートもクッションなんか無くただの板である。 後年、トーキョーの交通博物館で似た物を見かけた。 あれほど御立派じゃなかったけれど、確かにそれであった。 大人は、頭が天井につきそうだ。 時々、家のはりに頭をぶつけているハルオジなんか、背が、高くて大変なのだ。 ハルオジは、この小さな列車のことをチョット馬鹿にした様な風に、こう言うのだ。 「あのマッチ箱のようなチビスケ列車」 マッチ箱の様な汽車ってさ。 でもボクは、この呼び名が好きだし、ハルオジだって、ああ云ってるけれど本当は好きに違いないのだ。 なんかそんな気がする。 大人が天井につくなら、子供だってこの客車に乗ればミルミルウチに身体が、大きくなるのだ。 この事に気づいている大人は少ない、あるいは忘れたみたいだ。 マッチ箱のチビスケ列車は、遅れてきたオバアサンを、辛抱強く待ってから発車した。本線よりも狭い軌道をヨタヨタと、それでも精いっぱい力んでゴトゴトと動き出した。ちっちゃな機関車が、満員のちっちゃな客車を、危なげに運ぶ健気であった。 セイラー服のお姉さんや大きな荷物のモンペのオバアサン達を、あっちこっちの停車場所で降ろす。 停車場と云ったって遮断機の無い踏切とか、大きな木のある線路際である。 |
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そして、ついにあの恐ろしいトンネルを通るのだ。 まずいことに、このマッチ箱列車は車内に灯が、無いのである。 乗客全員がアッという間に暗やみのなかに閉じ込められるのである。 ああなんて事だ!! 真っ暗だ、ボクは、暗やみが怖いんだ。 ボクが、憶病者だと云う事実を、此のトンネルほど、そう感じさせる場所はない。 そして大人たちのヒソヒソ声がきこえる。 何故、急に小さな声で話すのだろう。 その時解った、彼等も怖がっているのだ、そのヒソヒソ話はとても恐ろしい内容だった。 |
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| このトンネルの線路の下に死んだ朝鮮人が埋められているというのだ。 死者を起こさないよう皆、暗やみの中、ここを通るたびに声をひそめるのだ。 僕は恐怖心を追い払おうとしながらも、こいつに何時も、捕まってしまうのだ。 チビスケ機関車は、わざとノロノロと暗やみの中を這い回るように進んでいる。 「早くしいろようーっ!!」 ボクは周りの皆に、さとられないように心の中で大きく叫んだその時、地下で眠っていた朝鮮人達を起こしてしまった事に気が付いたのだった。 トンネルを抜け、ホッとしたのも束の間、チビスケは脱線した。 大人たちが車外に出て簡単に復旧した、良くあることらしいその後、もう一回脱線した。 |
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