ハードタイムの始まり、バイバイケトベツ!!
たった一人で、見知らぬ家に引き取られていた、不安と混乱であろうか毎晩寝小便をしては、この家の人に怒られていた。
夜の便所は怖いのだ。 ひとつは、玄関の外にある。
あの赤犬の近くなのだ、夜の闇の向こうから何かに見られている気がして恐ろしい。
ふたつ目は玄関の外に出ずにそのまま、つながっている牛舎をまっすぐ行って、出口手前にある巨大な種豚のいる柵の向いだ。
もうひとつは、もっと遠く、牛乳の成分検査所の裏だから無理だ。
薄暗いランプの心細い灯、二階から階段を下り、牛のきつい小便の匂いの中、恐る恐る進む。
立ったまま寝ている牛たちは、人の気配を感じてしっぽを振ったりブルブルしたり何だか気持ちワリイ。
ここの子供たちは、トウキビ畑の丘の上にある小学校から帰ってくると、この年下の憶病者の新参者を、隠れて脅かしたり泣かしたりして喜んでいた、愉しい悪ふざけらしい。
とくに末の子は、自分より年下が、許せなかったのだろう、ボクを見る目に悪意を感じさせた。
だけどボクには急に、訳の分からない群れの中に放り込まれ行くところが無く、そこで生きるより仕方がなかったのだ。
此処から離れた時、寝小便はおさまったのだが、ハードタイムは、死ぬまで終わらない。
あの猫のように、生きられたらどんなに良いだろうか。
せっかく、この農場で生きてゆこうと、気持ちを整理していたのに、どこか他所に移されるらしい。
とても不安だ。 心配だ。 ボクは、いったいどうなってしまうのだろう?
淋しくて悲しい、泣いても、誰も助けてくれない。
何故かはわからないけれど、まだ死ぬわけには行かないと言う気持ちがするのだ。
バリバリバリ!!
牛にも馬にもメンヨウにも、お母さんがいるのにボクにはいない、それに、もうどれだけ時間が経っているのだろう。
お母さんの顔も忘れてしまった、もう思い出せない。
そんなの、はじめっから居なかったのかも知れない。
誰かが、迎えに来ると言ったけれど毎日毎日毎日毎日外に出て、雨の日も、風の日も、晴れの日も曇りの日も、切り株の上に座って、待っていたけれど、だーれも来やしない。
そしてその時、口数の少ない子供は、諦めるということを学んだ。
いいんだもう諦めた!!
バリバリバリバリ!!!
この諦めは、とても強力でもう取り消しはきかなかった。
アキラメが良い。良く言うとしつこくない。
悪く言うと地に足が着いていない、協調性がない。
それどころか、妥協しなくて、馬鹿で頑固なロバであった。
バリバリバリバリバリ!!!! 自分の力では、どうしようもならない。
混乱の真直中に、美しい景色を見た。
蜃気楼の様に、手では掴めない、今はもう何処にも無い、美しい場所、何処を探しても見つけることが出来ない。
唯一つ、そこへ行く方法があった。 外の世界からの情報をカットしてしまうのだ。
そこでは、誰にも邪魔されずに生きていける。
しかし、外の世界から見ると、まるでゾンビだ。
鈍感になれば傷つかない?・・・・・・・それも一つの選択だが。
殴られても痛みを感じなければそれでいいのか?
痛みを知らなければ、他人の痛みも気づかなくなるだろう。
それは、出来ないことだ・・・・・・ゾンビと愛情乞食の他に生きる道は?
この世で、生きるということは、悲しみや、辛さに何度も、対面しなければならない。
子供の頃に、見守られている優しさや温かさに包まれている、といった安心感を感じたり味わえなかったら、恐怖や居心地の悪さ、悲しみや苦しみ、辛さに勝つ力の源、フォースを使えない。 示されていないのだ。
そんな人には、耐えきれないとき、逃れる場所が必要だ。
癒される場所が与えられるべきだ。
地上にそれを、求めても難しい、地上はコンスタントに大混乱なのだから。
どうしたら混乱の地上で生きていけるのだろう。
荒れ狂う海では、船に必要なのは静かな港。
誰かが言っていた、良い船とは?
バランスの良い船は、傾いても、元に戻るように設計されている。
バリバリバリバリ!!!!バリバリ!!!
あのネコは、タフで、クールだが、人間に甘えることも知っていたんじゃないのか?
バリバリバリ!!!バリバリバリ!!! バリバリバリ!!!
ボクは雪の日に、カッコ良く働いているその姿を見るのが大好きだった。
チビスケ列車は雪を、掻き分けるラッセルと跳ね飛ばすロータリー車を、持っていた。
雪が一日中降り積もり線路を埋め尽くすと、ロータリー車を前につけたチビスケは、勢い良く線路上から、雪をバリバリ跳ね飛ばして、去年ジャガ芋を収穫した畑の向こうを、進んでいく。
ボクは、それを飽きもせず見とれていたのだった。
バリバリバリ!!! バリバリバリ!!! バリバリバリバリバリ!!!!! |